短編小説:世界は七色のジャンクヤード
「馬鹿かよ、わざわざ災厄を持ち帰るとは」おれは、そう言い放つと金髪の野獣たちの前に立った。霊柩車のように黒く武骨なフォードから降り立ったベビーフェースは、天使のように整った顔に苦笑を浮かべる。肩にはドラム弾倉をつけたトンプソンSMGを担ぎ…
あたしは、雑踏が苦手だ。ひとが多いと、何か異様なものを感じてしまう。ひとがひとに見えない感じ。まるで無数の操り人形が、耳には聴こえない音楽に合わせて動いているような。非現実的な感覚に陥ってしまう。そんなときは、頭の中でぼんやり想像する。自…
幾千もの刃が降り注ぐような日差しの下、彼女は夜の闇のように黒い蝙蝠傘をさして現れた。「なんで蝙蝠傘なんだよ」おれの呟きに、彼女は美しい、そう、大輪の花が開いたように美しい笑みを浮かべて応える。「決まってるじゃない」彼女の傘の中だけは、太陽…
あたしは、相変わらずデスマーチのただ中にいた。デスレースだったら格好いいんだけれどもね。あれは狩る側、奪う側だから。デスマーチっていったらもう、あれじゃあない。旧軍のほら、飢えと疫病で苦しみながら行軍をジャングルで続けるやつ。そんな感じで…
あたしは、いつものように。死衣のような白い服を身に着けて。死神のような漆黒の着流しを着たそのおとこの腕に抱かれておりました。夜のときは、目の前に流れる大きく黒い河のようにゆるゆると。そう静に密やかにゆうるりと。流れてゆくのです。おとことあ…
貴方様は、わたしの身体を抱き締めるとまるで息の根をとめるかのように。わたしの中の命そのものを、吸い出そうとしているかのように。強く強くわたしの唇を吸った。わたしは貴方様の鋼のような抱擁の中で、ゆるゆると溶けていきそうな、ここちになる。貴方…
彼がわたしを呼び出すのは、いつも水曜日なので。わたしは冗談混じりに彼のことを「水曜日の彼」と呼んでいる。じゃあ、月曜日や金曜日の彼がいるのかというと、そんな訳でもなくて。水曜日の彼だって。奥さんと子供がいるひとなので、果たしてわたしたちが…
(あたしと別れてここを出て行くなんて)彼女は、すこし口を歪ませた。笑っているような。憐れんでいるような。嘲っているような。そんなふうに唇を撓ませる。(砂漠の中に追放されるようなものよ)そうだね。そのとおりだ。僕は生きる理由も、描く情熱もす…
あたしはまるで。ふわふわとした、薔薇の花束の上でただよっているような気分から。刃を突き付けられるような、鋭い現実へと戻った。薄暗い場所だ。天井は高く、広々としている。あたしに馬乗りになったおとこは、にやにやと軽薄な笑みを浮かべたまま。手に…
「ねえ、ひとつ聞いていいかな」彼の問いかけに、あたしはベッドの上から答える。「うん、いいよ。なにかな」「どうして夏でも手袋をしているのさ」「やかないため」「ああ、日焼け防止ってこと? でもさ」彼は、トレイに二つの皿を載せて部屋に入ってくる。…
夜の果てがきたら。闇の終わりがきたら。ひとの世の終わりがきたら。おまえを切り裂きに行こう。 賑かな夜だった。誰もが笑い合い、歌い語り合う。音楽が絶やされることはなく、食べ物と微笑みが絶やされることは無かった。街頭は華やかに着飾った人達で、満…
そこはとても奇妙な場所であった。平凡な街並み。どこにでもあるような、住居や立ち並ぶ屋台。その雑多な迷路にも似た空間を抜けるといつしか昼でも昏いような、森へ出る。そして、薄暗い闇に閉ざされた森を抜けると、唐突に広場へ出た。わたしは、このよう…