2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

百物語 九十一回目「悪魔」

五年ほど前の話。あるひとが、プロテスタントの洗礼を受けたというので、話を聞きにいった。「わたしは、聖書を読んで愛されていることに気がついたのです」おれは、ひととして多くのものが欠落しているせいか。そもそも、神の愛というものを未だに理解でき…

百物語 九十回目「幽霊」

おれは結局のところ。書くことあるいは、描くことをつうじて。言語化される以前の世界。言葉によって構築される以前の意識へと。遡ってゆくことを望んでいたのではないかと思う。それはいうなれば。豊穣なカオスへの回帰を夢見ていたということであろうか。 …

百物語 八十九回目「ポルポト」

西原理恵子がイラストを書く場合、ほぼ間違いなく元の文章と全く関係の無いカットを描くのであるが、おそらく意図的になのであろうが、元の文章を喰ってしまうようなカットを描いている。唯一、西原のカットと互角に存在感を示すことができたのは、アジアパ…

百物語 八十八回目「戦争機械」

ジョン・レノンはイマジンでこのように歌っていた。 Imagine there's no countries 果たして、国家というものが無くなる日がいつになるかというのはともかくとして。この島国は、それほど遠くない未来において消滅すると思われる。それは、お隣の大陸にある…

百物語 八十七回目「ドン・ファン」

子供のころ、よく熱をだした。そういう体質であったようだ。中学生くらいまでは、一週間くらい高熱が続くことはよくあった。熱がでている間は、世界が変容し歪んで感じられた。深夜、暗闇の中で高熱に包まれていると、生きることがそもそも暗い地下の牢獄に…

百物語 八十六回目「ケルベロス」

もう、10年はたっただろうか。おれは、失業者であり、求職活動をしていた。朝まず、就職情報紙に目をとおして。おれのスキルが通用しそうな求人を見つけると、コンタクトをこころみる。アポイントがとれると、指定された時刻まで時間を潰す。だめだったと…

百物語 八十五回目「童子切」

7年ほど前になるだろうか。住んでいる近くに文士村というところがあった。由来はよく知らなかったのだが。夜になると、どこか濃い闇を湛える場所だったように思う。おれは、よくその夜の街を歩き。レンタルDVD屋にゆくのに。くらやみ坂といわれる通りを…

百物語 八十四回目「反対に河を渡る」

僕は暗闇を歩いていた。黒く真っ直ぐ伸びている道の両側は、熱帯の密林のように木や草が生い茂っており。灼熱に燃え上がる生の光輪が闇色にあたりを染め上げてゆき。そのむせかえるように濃厚な闇の薫りに僕は、少し意識が遠のくのを感じながら。黒曜石か、…

百物語 八十三回目「サンジェルマン伯爵」

おれは、元々アルコールには強い方ではないため、すぐに酔い潰れることになる。だから、記憶を失うほど飲むことは、殆どない。けれど、一度だけ。酒を飲みすぎて、記憶を失ったことがある。学生の頃のことであった。サークルの合宿で、琵琶湖のほとりにある…

百物語 八十二回目「夢の酒」

中学生のころ。古典落語が好きだった。なにしろ、アナーキー&バイオレンスな日常であったためか。おれは、普通の日常というものに憧れていた。まあ、学校だけでなく。家庭もそうとうあれていたので。こころの拠り所となるものが、必要であったのかもしれな…

百物語 八十一回目「おとろし」

こどものころから、色々なものが怖かったようだ。今となってはなぜそのようなものを怖れていたのかよく判らないものまで、怖がっていた。小学生のころはどうも怖れていただけなのだが。中学生のころからは、怖れをいだくとともに魅了されるようになった。そ…