2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

百物語 二十九回目「綱渡りの夢」

おれはかなり綱渡りの人生を歩んでいる気がすることもあるが。これはそういうことではなく。子供のころの夢の話だ。子供のころは、よく熱をだしたらしい。一度大病したらしく、その後よく熱をだすようになったと聞かされたが。正直あまりはっきりした記憶は…

百物語 三十回目「ヒサルキ」

8年ほど前のことになる。そのころおれは、いわゆるデスマーチの真っ只中にいた。例えば、月曜日に出勤して金曜日に帰るような日々で。半年くらい、一日も休まず働いていた。はたからは、死のうとしているように見えたらしく。実際そう言われたこともあるの…

百物語 二十八回目「九字印」

それは30年くらい前の話になる。古い街に住んでいた。近くには、縄文期の土器が出土するような山があり。いくつもの沼地が近くにはあった。今はもう、山は崩され沼は埋められ、延々と住宅地が広がっているのだが。そのころは、色々な気を孕んだ緑や水場が…

百物語 二十七回目「夜の夢」

僕はその黒い車の後部座席に座っていた。夜の国道を黒い車は西へ向かっている。夜の街のイルミネーションは綺羅綺羅と輝きながら、左右を飛び去ってゆく。遠くに黒い壁のように山が聳えていた。カーラジオからは、定期的にそれの情報がながされている。「現…

百物語 二十六回目「文学について」

彼女は再び訪れる。 彼女は再びこの地を訪れるだろう。その両の手には荊の焔につつまれた、剣を持ち。芸術と呼ばれる駿馬に跨り。その両脇には、美と快楽という名の猟犬をうち従えて。古に、東の草原を駆ける騎馬の民が。西の古都を燎原の火が焼き尽くすよう…

百物語 二十五回目「グノーシス主義」

゛果たしてキリスト教徒を最も陰惨に迫害し、虐殺した宗派はなんだろうか。それはもう、疑う余地もなく明白である。キリスト教徒は大量のキリスト教徒を迫害し虐殺してきた。邪悪な教えを信仰したという理由で。例えば、プロテスタントはカトリックを。カト…

百物語 二十四回目「目について」

ベルクソンは、目について光という問題に対する解と語ったという。それは、複数の生物の種が異なる器官を発達させていった結果、たどりついたのが同じ目という器官であったためだ。ベルクソンは重要なのは問題を解くことではなく、問題をみいだすことだとい…

百物語 二十三回目「脳について」

アンティキティラの機械よりも古いコンピュータがあるとすれば、それはひとの脳ということになろうか。脳というものは、大変不思議な機械である。そこでは複数重なりあって存在する世界がひとつの実存に向かって収束するという出来事が行われている。量子力…

百物語 二十二回目「ジョン・ディー」

そういえば、二十年ほどまえ新聞の映画の紹介で、エリザベス女王を暗殺者の手から救うため魔法使いジョン・ディーが魔法の力で彼女を未来へ送るのだが、そこはパンクスに支配されたロンドンだったというのを読んだんだが。一体なんというタイトルの映画だっ…