2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧
「馬鹿かよ、わざわざ災厄を持ち帰るとは」おれは、そう言い放つと金髪の野獣たちの前に立った。霊柩車のように黒く武骨なフォードから降り立ったベビーフェースは、天使のように整った顔に苦笑を浮かべる。肩にはドラム弾倉をつけたトンプソンSMGを担ぎ…
学生時代の話。嘘をつくのが好きな友人がいた。彼は、嘘をついているときにはとても楽しそうにしていた。だから。嘘をついているときには、すぐに判る。彼は、言葉を操り。束の間の仮想現実の中で、僅かばかりの享楽を得る。反対に。真実を語るときには、と…
学生時代のころ。ヨーロッパで荷物を財布ごと盗まれて文無しになったやつが。なぜかロシアを横断してこの島国まで帰ってくることができて。どうもそいつは、秘密結社であるローゼンクロイツに加入しているという噂があり。哲学科の学生なのに教授からは相手…
十数年前のことになる。そのころは、移動するのによく飛行機を利用していた。今ではまずやらないのだけれど。東京-大阪間でも普通に飛行機を使っていた。その日。珍しく、夏の夕暮れに大阪へと向かっていた。飛行機の窓から見える景色は、どこか現実離れし…
僕らが辿り着いたのは、とても小さな駅だった。僕とあなたは、夜の闇に浮かんだ白い孤島のようなプラットホームから降りると。銀色の雨が降る夜道へと歩みだす。僕らは記憶をたどるようにして。そう、古い古い記憶をたどってゆくようにして、銀色に輝く雨の…
子供のころの話である。家の裏手には庭があったのだが。あまり手入れのされていない、サヴェージ・ガーデンといった感じの庭であった。一度その庭で竜巻がおこったことがあり。親は小さな池を造って、竜巻を防止した。おれはその池に蛙をつれこんだので。夏…
あたしは、雑踏が苦手だ。ひとが多いと、何か異様なものを感じてしまう。ひとがひとに見えない感じ。まるで無数の操り人形が、耳には聴こえない音楽に合わせて動いているような。非現実的な感覚に陥ってしまう。そんなときは、頭の中でぼんやり想像する。自…
幾千もの刃が降り注ぐような日差しの下、彼女は夜の闇のように黒い蝙蝠傘をさして現れた。「なんで蝙蝠傘なんだよ」おれの呟きに、彼女は美しい、そう、大輪の花が開いたように美しい笑みを浮かべて応える。「決まってるじゃない」彼女の傘の中だけは、太陽…
学生時代の話である。それは、当時はやっていたと思われる無国籍料理の店であった。エスニックな装飾がほどこされたその薄暗い店内で。おれの前にいたそのおんなの子は、こんなことを言ったと思う。「結婚するときに、娘さんをくださいとかいうの。あれ絶対…
それは5年ほど前のこと。プロテスタントの牧師と話をしたときのことである。おれは前々から聞いてみたいと思っていたことを、牧師に訊ねてみた。それは。「イエスは死んで生き返ったということは、今もどこかにいるのですよね。どこにいてるのでしょう?」…
学生のころの話である。おれたちは、学生会館の一室をアトリエとして借り受けて、そこで作品制作を行っていた。そのアトリエは結構広い場所であったが。なぜか、大量の廃材が置かれてあり。おれは、意味もなくそこで廃材を叩き壊したり、角材を振り回してへ…
学生のころの話。絵を描いていた。描くだけではなく、ときおりグループ展と称し画廊を借りたりしていた。もちろん、美大でもない学生の描く絵など見にくるひとは殆どおらず。画廊にいても、暇なばかりだったので。色々馬鹿な話をしていた。例えば。そのころ…
学生時代の話である。それは、夏が終わり秋がはじまったばかりのころだったように思う。なぜか海辺でバーベキューをしようという話になったのだが。より集まったおれたちは、皆手ぶらだった。当然バーベキューセットもないし、どこへゆくというあてもない。…
それは、30年くらい前の話。古い家に住んでいた。戦後間もないころに建てられた家。その家にある離れに住んでいた。その離れは。どこか閉ざされた場所であった。通りには面しておらず。片面は雑木林じみている庭と、母屋の裏手に囲まれ。その裏側は、地面…
それは、夏の日のことでした。盛夏とでもいうべき、燃え盛る業火のような太陽が地上を蹂躙していた日。まだ学生だったわたしは、なぜかその容赦のない日差しの元で、絵を描いていました。そこは滋賀県の湖西だったと思います。見渡す限り、ずっと田園地帯で…