2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

百物語 五十七回目「一つ目坊」

学生時代の話である。おれは、嘘をつくのが好きな彼と話ていた。「おまえ、眠たそうやな」彼の言葉に、おれは答える。「夢見が悪かったんだよ」「夢なんか見るのか。 どんな夢なんや」「いや、それが」多少、ここに書くには憚れる内容の夢なのであるが、詳細…

百物語 五十六回目「ドラゴン」

高校生のころの話である。大阪市立美術館は、天王寺公園の中にある。今では有料化され、普通の公園になったが。30年前にはかなりカオスな場所であった。昼間から、酒をくらい、歌をうたって、踊り続ける。そんなひとたちが、たむろしている場所であり、素…

百物語 五十五回目「えびす」

15年ほど前のことである。一時おれは職を離れ。日々を無為に過ごしていた。一日の大半を誰とも会わず、誰とも口をきかず。どこかに居つくこともなく。ただただ、漂泊の毎日であった。そのときは時間をつぶすため、あちこちを訪れた。主に図書館。それ以外…

百物語 五十四回目「付喪神」

高校生のころの話である。絵の師匠のアトリエには色々なものがあったが。中には、名状の付けがたいものがあった。例えば。螺旋を描く棒状のもので、虹のように様々な色彩が彩色されているもの。アクリル絵の具でおそらくクリスタルバーニッシュかなにかでつ…

百物語 五十三回目「真白き花と星の河」

夜は黒いビロードのように、世界を覆っていた。その優しく滑らかな夜空の黒い幕に、無数に開けられた穴のような白い星々が輝いている。僕は、黒に黒を塗りつぶしたような夜を歩いていた。気がつくと、白い花が咲き乱れているような。あるいは、真白き骨の破…

百物語 五十二回目「ぬらりひょん」

10年ほど前の話である。都心近くに住んでいたが、その近くに大きな商店街があった。休みの日、時間があると夕暮れ時にその商店街を歩いたりする。いわゆる、逢魔ヶ刻。西のそらは紅く染め上げられ。地上は黒い水が澱むように、闇が沈んでくる。そんな時間…

百物語 五十一回目「人狼」

15年ほど前のこと。おれの仕事場は地下にあった。そこは、当然窓はなく人工の照明のみで、温度調節も空調のみなので。外の気配は知るよしもなかった。そんな場所なので、ただひたすら仕事をする以外にどうしようもなかったのだが。昼も夜も。季節も感じる…

百物語 五十回目「進化」

高校生のころの話である。おれは、絵の師匠の元へ通っていたが。時折、食事をご馳走になることもあった。ある日の夕食後、居間でこのような話をした。「生物の進化というものは不思議ですね。適者生存といいますが、より環境に適応したものが生き残っていく…

百物語 四十九回目「村正」

大体3年ほど前のことになるだろうか。その街は、多少古い町並みを保存しているらしかったが。まあ、古い商店街や昔ながらのお寺があったりする、ありふれた街ではあったのだけれど。街全体を、博物館ということにしているらしくて。ただの和菓子屋とか新聞…

百物語 四十八回目「くだん」

5年ほど前の話である。赤坂のあたりで仕事をしていた。おれは、5人ほどのチームのリーダーであり、例によってデスマーチの真っ只中であった。「今呼ばれて、スコップを渡されました」「何だよ、それ」「それで、足元に穴を掘れって言われました。その後穴に…

百物語 四十七回目「サイコパス」

学生のころの話である。周りのひとたちから聞いたところによると。おれは常に不機嫌そうな顔をし、口を開けば冷笑を浮かべながら辛辣なことを言うひとで。まあ、簡単に言えば実にいやなやつということなのだが。そのおれが唯一楽しそうにすることがあった。…

百物語 四十六回目「ジル・ド・レエ」

学生のころの話である。おれは、はじめて小説をひとつ書き上げた。当時笠井潔の作家の行きつくところは自殺か政治家という言葉を知っていたわけではないが、文学というものにできるだけ関わりたくなかったおれとしては奇妙なことをしたものであるが。自作の…

百物語 四十五回目「エリザベート・バートリ」

学生のころの話である。よく、先輩の下宿にいりびたっていた。そこは、幾人かが常時いる感じでおれたちがたむろする場所と化していた。先輩はいいひとなので。たまに。「カレー作ったけど食うか?」とか言ってカレーをご馳走してくれたり。酒を持っていくと…

百物語 四十四回目「ヴラド・ツェペシュ」

25年ほど前の話。そこは梅田にある小さな居酒屋であった。おれたちは既にかなり杯を重ねていて。酩酊というところまではいってなかったかもしれないが。それなりに酔ってはいた。どうしてそういう話になっていったのかは、よく覚えていないが。彼はこう言…

百物語 四十三回目「妖魔」

ずっと昔、僕はそのおんなと夜を幾度か過ごした。一緒に暮らしていたわけではないけれど。おんなは僕とともに夜を渡った。僕は殆どしゃべることは無かったので。おんなは僕にいつも話しをねだった。僕は。いつか書こうと思っている物語の断片を女に語った。…