百物語 十回目「手のひらのはなし」

子供のころのはなしである。

子供の頃、季節の変わり目になると手のひらに水疱ができた。
手のひらに水滴がぽつりぽつりと。
落ちてくるように。
あるいは。
手の中から水滴がわきだしてくるかのように。
ぽつり、ぽつりと。
細かな泡のようなそれは。
浮きだしてくる。
針でつついて潰すと。
透明な水があふれでる。
色もなく。
匂いもない。
ただの水が溢れる。
やがて手のひらの皮がぼろぼろになってゆき。
手のひら全体の皮がめくれきったころに、水疱は消えてゆく。
一度医者に連れていかれたことがあったが、原因は何か判らなかった。
痛みも痒みもなく。
ただ、それは身体の中から浮き上がってくるものであった。
身体というのは、意識やおれ自身の生命とも関わりがなく。
何か独自の自然であり。
何か独自の理に属しており。
それはかってに。
その内から沸き上がってくるものを。
透明な水として。
時折外へと吐き出しているのだなあと。

そんなふうに思ったのだが。

今ではそんな水疱ができることはなくなり。
自分の身体が何か得たいの知れない理に従って暴走していくような感覚を持つことはなくなったけれど。
まあ、身体もまた自然そのものであるとは。
今だに思ってはいる。

 

 

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