百物語 十一回目「足のはなし」

左足のふくらはぎの外側。

何故か、夢の中でそこに苦痛が幾度も訪れる。
似たような夢を何度となく見た。
医者に不治の病を宣告され、家に帰ったあと。
全身が腐り爛れてゆくなかで。
真っ先に左足のふくらはぎの外側の肉がごそりと崩れ落ち。
骨が露出する。
そこから病が広がってゆく感じ。
そんな夢を繰り返し見る。

そこから死が強引に入り込んでくることもある。
電気スタンドのコードが火花を散らしながら、左足に食い込む。
稲妻のような、あるいは蒼い炎のような苦痛がそこから全身に広がる。
真冬の寒さのような毒が身体中に注ぎ込まれるような。
それも、左足のふくらはぎの外側からくる。

実際の左足には。
何もない。
右足と変わるところはない。
夢の中で苦痛を感じる部分に、何か傷痕があるでもない。

見た目には何も変わらないのに。
そこから死がやって来るような予感がある。
もし、そこの肉を剥いで中味を剥き出しにすれば。
きっと異界への通路が埋め込まれているのだろうなと。
そんな気はするものの。

夢から覚めればまったく変わらぬ外観の足に。
少し驚き、妙に残念な気がする。

 

 

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