百物語 十五回目「再び虫のはなし」
古い家に住んでいたころの話だ。
兎に角木造の古い家であったせいか、色々な虫が棲んでいた。
大きな蜘蛛が木の枝みたいに長い手足を伸ばして這い回り。
寝ているとざわざわと百足が足元を這い回ったりするし。
夏になれば網戸で蝉が脱皮をして。
扇風機に蟷螂が産卵していたりする。
そのころから、おれは不安と恐怖が夢の中で虫の形をとることはよくあって。
寝床の隣に大きな本棚を置いていたのだが、その最上段と天井の間にスペースがあった。
夢の中で色々な虫がそこからよく落ちてきたものだ。
眠っていて身動きできないおれの上に。
なんだかゴムチューブのような無数の節のあるのたくる虫や。
アメフラシみたいな軟体動物ぽいやつも。
無数の足がある節足類みたいなやつが。
ぽろぽろと。
ぽたりぽたりと落ちてきて。
部屋を満たしてゆき。
おれの不安と恐怖が虫の形で部屋を覆い尽くしていったものだが。
さて、それは年末の大掃除のときだったように思う。
おれは、滅多に掃除しない本棚と天井の間のスペースを掃除したのだが。
そこに虫の死骸があった。
体長10センチほどの。
太りすぎたヒルのような。
どす黒く変色したナメクジみたいな。
見たこともないような虫で。
おれは、おれの夢の中からこぼれ落ちてそこに棲んでいたのかと思い。
すこし、ぞっとしたものである。