百物語 二十回目「人力コンピュータ」

コンピュータを文字どおり、計算機とうけとるのであれば。
例えば算盤にしても人力で動かされるコンピュータと言えなくもない。
ただ、関数計算くらいはできるべきだというのであれば、計算尺といことになる。
古いSF小説を読んでいると、星間文明を築き上げるほどに科学技術が発達した世界でも。
物理学者は手に計算尺を持っていたりする。

しかし、世界最古のアナログコンピュータとして知られているのはやはり、アンティキティラ島の機械ということになるだろうか。
ウィキペディアから少し引用してみる。

アンティキティラ島の機械
アンティキティラ島の機械は最古の複雑な 科学計算機 として知られている。機械の作りが完璧なため、発見されていない試作品や類似の機械の存在が予想されるが 、多くの歯車が組み合わさっており、最古のアナログコンピュータと呼ぶ人もいる 。ギリシャ天文学者らにより進められた 天文学と数学の理論に基づいて製作されたとされ、紀元前150 - 100年に作られたと推定される。」

かつて、ひとは世界を数式で表現するために、様々な機械を造り上げた。
数式で世界を表現する。
これは、エレガントに美しく表現するということと同じだ。
例えば。
天動説と地動説の差異とは何だろうか。
どちらとも星々の動きを数式で表現することが可能なのであるが。
地動説の優位な点は数式のシンプルさであり、言い換えればエレガントさであり、美しさであると言っていいだろう。

おれたちは結局数式で世界を顕しより美しく表現するために、現実にはありえない数の存在を要請することになる。
即ちそれが虚数であり、量子力学を表現するための複素数ということになる。
累乗するとマイナスになる数というものは現実世界で想像することはとても困難ではあるが、現代の量子コンピュータに組み込まれたロジックとはそのようなものだ。

アンティキティラ島の機械の時代はよりシンプルであり、美も単純であったと思われる。
そう、そのころの神は。
アインシュタインがナイーブに語ったように。
サイコロを振ったりはしなかったのだろう。

おれたちは当時より色々なものを暴きたてたはずなのに。
美は混迷し不可解な様相を示す。
けれどきっと。
全てを解き明かす唯一の数式、万物理論は。
どこかでそっと見出だされるのを待ちながら、真珠の夢を見ているにちがいない。

 

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